Prologue

リリス王国の王族が創設したと言われる、リリス王国デザイン学院。
数々のデザインバトルを制した衣装を保管する場所がいくつも設けられているが、中でもエントランスホールの壁を埋め尽くすガラス張りのクローゼットは格別だ。

荘厳な佇まいをしたクローゼットの中でも、ひときわ豪華な造りをした棚は、学園祭で行なわれるデザインバトルの覇者を決めるために造られたものだ。
誰もがこの中に自らがデザインした衣装が飾られることを目標としている。

「ねぇモモ、ここは学院の学生しか入っちゃいけないんだよ、私たちが入ったら大変なことになっちゃう…!」

不安げに薄桃色の髪を揺らしながら、ニキが目の前を歩くモモに声をかけた。
いつも一緒のはずのポポは「学院に入ることを許されていないから」と不在にしている。

「僕たちはロイス王子の友達なんだよ?大丈夫に決まってるにゃー」

ふんふんと鼻を鳴らしながら、モモは先へと進んで行く。

「あ、ニキ!そこだにゃー、デザインバトルのクローゼット!」

月に照らされたクローゼットは銀色の光を受け、その中に飾られた衣装をぼんやりと輝かせた。

そこに立っているのは、不思議な髪の色をした女性だった。
膝まである豊かな髪は背中から腰にかけて赤みを帯びた茶色から金色へと移り変わり、どこかオリエンタルな雰囲気が漂っている。
しかし、その瞳はポポやクローカと似た深い青。

「あなたは…?」

初めて会う雰囲気に、思わずニキが声をかけた。

「私はパテール連邦から参りました、一華と申します。リリス王国デザイン学院学園祭の時期だけ、ここの番を預かっているのですよ」
「パテールから?」
「ええ。ここには各国の素晴らしいデザインが詰まっていますわ。各国の布地の保管方法を熟知している私のような司書、あとは学芸員もいるのです」
「そうだったんですね、驚いてしまってごめんなさい。私はニキ、こっちは友達のモモです」

挨拶を交わしたところで、一華はニキに声をかけた。

「よろしければ、出展されている衣装をご案内しますよ。触れることはできませんが」
「いいんですか?ありがとうございます!」

そうしてニキとモモは一足先に、デザインバトルの衣装を見学することになった。