「生徒諸君、美しさと強さは外見だけで判断できるものではないぞ?」
カツン、とステッキを鳴らして彼女は言い放つ。
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黒水城と並びその佇まいが評される、ノーザン屈指のデザイン学院・ノールデザイン学院。
他国と大きな違いはやはり、生徒会役員だけが武器の着用を許可されていることだろう。ただし、生徒会役員に選出されるには優秀な成績を収めるだけでなく、厳しい規律を守らなければならない。
規律はたった一つ。
戦闘訓練以外で武器を決して使用しないこと。
武器に憧れを持ち生徒会役員を志す生徒は後を絶たない。その地位を得た者の多くは清廉潔白にあろうとするが、いつしか己の自己顕示欲のために武器を振るうようになる。それを憂いて定められた規律である。
規律を破ると、生徒会役員の資格を永久に剥奪される。
武器をもって人を傷つけた場合は退学となり、国内全ての学院への入学資格を失う。
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今期の生徒会役員会長に就任したのは、学院では珍しく、女生徒だった。
冬の柔らかな光のような色をした髪に、深い湖の水面を思わせる瞳。いつも肩には一羽の青い鳥が止まっている。その姿はどこか儚げで、彼女が選ぶ武器は何なのか、学院中が注目していた。
「エミリア・ヴァイスリヒター。そなたはどの武器を選ぶ?」
学院長が武器庫の扉を開け、彼女に促した。そこには所狭しと武器が並べられていた。
数多くの装飾が輝く剣。
金と銀で作られた双槍。
流麗な細工の施された刀。
流線型の、不思議なデザインの銃。
「私は…これにします」
そう言って、一つ手に取った。
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そして迎えた、他校との戦闘訓練。彼女が選んだ武器が、初めて学院の生徒の目に触れる機会だ。会場には多くの生徒が詰めかけ、熱気に包まれている。
「ノールデザイン学院、エミリア・ヴァイスリヒター。キャスティール学園、イルマリ・シェーファー。両者、前へ」
二人がフィールドへ登り、それぞれの武器を手に取った。
イルマリが手にしたのは、銀色の剣。
対するエミリアが手にしているのは、武器とは思えないステッキだった。
「会長のあれ…武器なの……?」
手にしているのは、木でできた細いステッキ。持ち手に彼女の家紋が施されていたものの、他に装飾はなくシンプルなものだった。
学院の生徒のざわめきが起こった。誰もが怪訝そうな顔をしているが、それに反しエミリアは涼しげな顔をしている。その様子をみて、学院の生徒は「それでも学院一の実力者の筈だから」と彼女を見守ることにした。
始め、と審判が手を降ろした。
先に動いたのはイルマリだった。剣を振り上げ、エミリアへと向かう。
そこから試合が終わったのは、ほんの一瞬だった。ステッキを棍棒代わりに、次々と対戦相手を倒していくその姿は、まるで舞を舞っているかのようだった。
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ほどなくして全ての対戦に勝利した彼女は表彰状と盾を受け取り、生徒の方を振り返った。
「生徒諸君、美しさと強さは外見だけで判断できるものではないぞ?」
カツン、とステッキを鳴らして彼女は言い放つ。
その音が講堂へ響き、肩に乗る小鳥が高らかに鳴く。その瞬間、講堂に万雷の拍手が沸き起こった。
悪友(悪いことしたことないけど)のcue氏がコーデと設定を考えてくれました。人の設定で書くの難しい。実はこの企画を考えたのはcue氏だったり…。投稿諸々、ありがとうね!
せっかくなのでcue氏の設定を…。
ノーザンの生徒会長。
学院の生徒会役員はアクセサリーとして本物の武器の着用が許されていた。
だが、生徒会長が支給品のハンドガンの他に選んだのは何の変哲もないステッキ。
怪訝な声が上がる中、彼女は涼しい顔をして来週に控える他校との戦闘訓練の書類にサインした。戦闘訓練当日。
華奢なステッキを棍棒代わりにして次々と相手を倒していく生徒会長。
最優秀選手の称号を手にした彼女は、不敵な笑みを浮かべながら講堂に登壇した。「生徒諸君、美しさと強さは外見だけで判断できるものではないぞ?」
彼女の肩に乗った青い小鳥が高らかに鳴く。
講堂に万雷の拍手が沸き起こった。